トーキング・タイプライターとは、簡単にいえば、電動式タイプライターとテレビとが組み合わさったような機械である。この特徴の一つは、子どもの反応(注1)に対していちいちうけこたえしてくれることだ。
トーキング・タイプライターは小さな部屋におかれている。ここに子どもほ30分以下なら何分間いてもよい。すぐに出ていってもかまわない。まったく自由なのだ。しかも、この小部屋のなかでは、「何々をせよ」「( ① )」といった指示や禁止は一切(注2)与えられない。好きなことをなんでもしてよい。これは徹底(てってい)している。
子どもが部屋に入ってくる。( ② )、たいていは部屋の真中にあるこの奇妙なタイプライターに興味を持って、それをいじり(注3)はじめる。なかにはなかなかさわろうとしない子どももいるが、それは例外的である。タイプライターのキーをいろいろたたいてみる。(②)タイプされた文字が出、同時に、その者都度(注4)その文字の発音が聞こえてくる。たとえば「a」という文字をたたくとタイプはすぐに「エイ」と答えてくれるのだ。
③これはほおもしろい経験だ。ある三歳児は、機械が自分ののぞみ通りに何回も反応してくれることがうれしくて、75回も同しキーをたたきつづけたという。
組織的(そしきてき)に一列の文字を一つ一つ順にためす子どももいれば、数字のところをいじって遊んでいる者もいる。また、デタラメにそこらじゅうのキーをたたいてみる子どももいる。しかし、みな、このタイプライターのキーの自由な探索(注5)を楽しむのである。
そうしているうち、この機械の構造がわかってくる。こうなると子どもは飽きてくる。この部屋のなかにとどまる時間が短くなったり、タイプをたたく回数が落ちてきたち、④そのしるしがあらわれた、と思えばよい。こうなったとき、ただちに次の学習段階に入る。放っておくと、二度とここにきてくれなくなってしまうかちだ。
この⑤第二段階では、前ぶれもなく(注6)突然、テレビの画面の部分に文字が出、つづいてその発音が聞こえる。同時にこの画面に出た文字を除いてすべてのキーが動かなくなる。⑥子どもは「アレ!」と思うだろう。そこで押すと動くキーをみつけようと、一生懸命になる。子どもが対応するキーをみつけ出して打つと、その文字がタイプされる。そして再ぴその文字の発音が聞こえる。少しのまをおいたのち、別の文字が画面にあらわれる……。
(中略) こうして子どもは、おもしろがって画面に出た文字と対応する(注7)キーをみつけようと夢中になって反応しているうちに、アルファベットの各文字や句読点(くとうてん)などを知らず知らずのうちに学習していくのである。 (波多野誼余夫・柵垣佳世子「知的好奇心」による)
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(注1)反応(はんのう):外からの刺激(しげき)に対して起こる動き」
(注2)一切:全然、まったく
(注3)弄る(いじる):用事もないのに、さわったり、なでたりすること
(注4)その都度(つど):その度(たび)に
(注5)探索(たんさく):いろいろなことをして、もののある場所などを探すこと
(注6)前ぶれむなく:次に起こることを知らせずに
(注7)対応(たいおう)する:合う |
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