私たちのまわりを見ると、物が溢れています。(中略)しかも、ビデオ、コンパクト・デイスク、レーザー・デイスク、ファミリー・コンピユ-(注1)他次々と新しいものが登場してきます。“素晴らしい文明社会”といってよいでしょう。
それでは、その中で私たちは満足しているかというと、そうでもありません。もちろん、人間は欲深いですから、どんなに豊富なものに囲まれても、まだまだ欲しいという面もありますが、①いまの不満は量や新奇なものを欲しいがるのとは少し違います。
A たとえば、今では当たり前のことになりましたが、冬でもトマトやキュウリが出まわっていること。サラ
ダの彩りとして、トマトを使うと、まわりの緑が引き立って美味しそうになりますから、いつでも②トマトが手に入るのは、お料理をする人間としてはうれしいことです。
B でも、私は、トマトが実をつけるには、かなりの温度充分な太陽が必要だということを知っています。ですから、冬のトマトは、石油を燃やして温室で作っていることが分かっているので、③“本物”でない気がせず、ありがたいと思う一方、なんだか不満です。
C 台所の中にはプラスチック製品がたくさん。色とりどりできれいですし、割れなくて便利ですが、これもどこか“本物”でない気がします。(中略)
D これまでに“本物”という言葉をつかってきましたが、それで本物とは何かということになります。こう考えると難しいのですが、その一つに自然をうまく利用しているもの、自然とうまくとけ合うものの場合、なんとなく安心感があるといえるのではないでしょうか。
バイオテクノロジー(生物技術)は、④そのような願望(注2)を実現しようとする技術です(もちろん、現実には難しい問題がたくさんあり、直ちに夢の現実とはいきませんが)。私たち人間は、暮らしていくために食べ物、衣服、住居を必要とします。それらを何から作るか。食べ物はもちろん植物や動物、魚など、そのほとんどが生き物です。衣服も、麻木綿、毛織物に絹とすべて生物由来のもの(注3)でした。住居さえ、日本の場合木や草、紙を使ってきたのですから、これも生物を利用してきたというわけです。
このような生物依存(注4)の生活、ついこの間まで―三、四十年前ですが、それは人類の歴史の中ではこの間です―⑤そうでした。近年、石油を材料にしたプラスチックが生まれ、合成繊維(注5)が安価で大量に生産され、化学肥料が合成されるようになり、⑥私たちの生活は急速に生物離れしました。そのために、最初に書いたような豊かさが生まれたのは確かです。
(⑦)、生物はなれしたためのマイナスも少なくありません。それが、やはり自然とうまくマッチ(注6)した形で、できれば生物をもう少し上手に利用したほうがよいのではないかという気持ちを生んだわけです。⑧もう一度生物技術を見直そうということです。
(注1)ビデオ、コンパクト・ディスク、レーザーディスク、ファミリー・コンピュータ:新しくて便利な電気製品 (注2)願望:願いや希望 (注3)生物由来のもの:生物から作られたもの
(注4)依存:何かに頼ること (注5)繊維:綿や絹、ウールやナイロンなどのこと (注6)マッチする:合う
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